青空
一日に一回投下される食料品の箱を開けるたび、北村は苛立ちに似た感情を抱く。


「君は強いな。」

「…。」

尾上は何も答えない。


「香澄君といい、テツオ君といい、君は大事な人が苦しむのを見なければいけないのだから…。」

「僕は患者である彼ら彼女らが少しでも治るよう、精一杯手助けをしているだけですから。」

やや質問からずれた答えを言うと、尾上は立ち上がった。


「教授。私は行きます。」

「分かった。」

尾上は一礼すると、研究室を出て行った。


夜の帳も完全に落ちた研究室にただ一人残された北村は、タバコに火を一瞬つけた。

しかし、口に当てることもなく灰皿に押し付けると、小さくため息をついて部屋を出て行った。
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