Anonymous〜この世界にいない君へ〜
「い、行くぞ!」

優我は顔を真っ赤にしながら智也と共に去って行った。それをぼやけた視界で見送っていた紫月の目を幸成が自身の手で覆う。

「見ない方がいいよ。もう今日は帰って休もう。無理やりここにいても気分は悪くなるだけだよ」

「幸成……」

「最近、事件ばっかりで紫月あんまり休めてないんじゃないかな?このままだと倒れちゃうよ」

「だが……!」

紫月は幸成の手を掴み、目を開ける。心配そうな彼の顔が目の前にあった。幸成の言葉に嘘はない。紫月の体調を本気で心配しているのだ。しかし、紫月は頷くことはできなかった。

「俺は最初に現場に駆け付けた。だから残る義務がある!」

紫月は幸成を軽く押し退けて歩き出そうとしたものの、また吐き気が込み上げてきてその場にしゃがみ込んでしまう。嫌な汗が額に浮かんだ。

「ほら、もうフラフラじゃん!」

幸成は呆れたようにそう言い、紫月にビニール袋を差し出した。紫月はひったくるように奪う。酸っぱいものが込み上げ、激しく胃の中のものが逆流していった。
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