Anonymous〜この世界にいない君へ〜
メニューにはSNS映えをしそうなスイーツから昔ながらの喫茶店にありそうなスイーツまであり、種類豊富である。

「これだけあると迷いますね」

そう言い笑った翡翠に、紫月は「ゆっくり決めましょう」と笑いかけた。数分後、紫月はハニーカフェオレとザッハトルテを、翡翠は苺チョコミルクとフルーツタルトを注文した。

注文を聞いた店員がテーブルから離れた後、紫月は目の前に置かれたお冷やを一口飲む。そして緊張を覚えたまま訊ねた。

「どうして俺に会おうと思ったんですか?」

「これにあなたのことがたくさん書いてあったので、どんな人か会いたくなったんです」

翡翠がバッグの中から日記帳を取り出す。鍵付きのおしゃれなデザインのものだ。紫月は思わず「アノニマスが……」と呟いていた。翡翠が真っ直ぐ紫月を見つめる。

紫月の口から自然と言葉が出た。

「一期一会。その言葉が相応わしい人に、これまでの人生で出会ったことはあるだろうか?俺はある。その人と過ごした時間は、まるで花火が打ち上げられて花を咲かせる一瞬で、でもとても美しい時間だ」
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