眠りの令嬢と筆頭魔術師の一途な執着愛

7 自分自身

「今の俺は冷静じゃない。一緒にいたらきっとまたローラを襲う。体も心も傷つけてしまう。だから、俺が落ち着くまでは俺の前に姿をあらわさないでほしい」

 ヴェルデにそう言われて部屋を追い出されてから、ローラは結局その後一度もヴェルデに会えなかった。ヴェルデは夕食の席にも姿を現さず、ローラは不安を募らせる。

 夜になり、寝室で寝る支度をしていたローラだが、いつも一緒にいてくれるヴェルデの姿はそこにはない。

(今日は、ヴェルデ様はこのままここには来ないのかもしれない)

 ティアール国で失踪を企てたあの日から、一日も欠かすことなくヴェルデは夜になるとローラのそばを離れずにそばにいた。サイレーン国に来てからも一人になって不安にならないように、辛い夢を見てもいつでもすぐに抱きしめられるように、ヴェルデはいつでもそばにいて寄り添ってくれていた。

 でも、そのヴェルデは今いない。薄暗く、静かな寝室にローラの呼吸音だけが鳴り響く。

(一人が、こんなに不安なものだなんて思わなかったわ)

 いつの間にか、ヴェルデに頼りっぱなしだった自分の心に気づいて驚愕する。百年前、エルヴィン殿下と婚約していた時、王城ではいつも一人だった。エルヴィン殿下が寝室に訪れることは一度もなく、それを寂しいと思うこともいつの間にか無くなっていた。それが当然なことだと思っていたのだ。

 あの頃はなんとも思わなかった暗闇、静寂、風が窓を叩く音、木々の揺らぎ、屋敷内の遠くから聞こえる微かな話し声や誰かが動く音、その一つ一つが今では自分は一人ぼっちなのだと思わされ不安を掻き立てる要素になっている。そして、その不安が、自分は命を狙われているのだという更なる不安と恐怖を連れてくるのだ。

(ヴェルデ様がいない夜が、こんなに怖いものだったなんて……)

 ローラはぎゅっと自分で自分を抱きしめた。
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