眠りの令嬢と筆頭魔術師の一途な執着愛
 ローラが両手で口を覆い、息を呑み後ずさる。今にもその場に崩れ落ちてしまいそうで、ヴェルデは思わずローラの体を支えた。

「エルヴィン殿下……!」

 ローラの呟きに、イヴはローラへ視線を送り、ニヤリ、と笑う。その笑みはイヴの優しい微笑みではなく、卑しく穢らしいゲスい笑みだった。

「この体が俺の末裔か。なるほど、悪くない」

 自分の体の状態を確認しながらイヴの体を乗っ取ったエルヴィンは満足そうに頷く。それを見て、イヴの兄たちはエルヴィンの足元に跪いた。

「お前たちも俺の末裔だったな。尽力に感謝しよう」
「本当に、甦ったのですね……ありがたきお言葉」

 イヴの兄たちが頭を垂れると、エルヴィンはクローに話しかける。

「お前が俺を蘇らせた男だな。よくもまぁこんな大それたことをしたものだ」
「お褒めいただき光栄です」

 エルヴィンの賛辞にクローは張り付いた笑顔を向けた。

「さて、そこにいるのはローラだろう。久しいな。ローラのそばにいるのは確か、サイレーン国の筆頭魔導師だったか。このクローとか言う男に蘇りの打診を受けてからお前たちのことを聞いてはいたが……ふん、あのまま死んでいればいいものを」

 エルヴィンは気に食わないという顔で腕を組みローラを睨みつける。

「お前が死なず眠り続けたせいで俺やイライザたちがどれだけ酷い目にあったか!全部お前のせいだ。そもそもお前が出しゃばりで生意気な女なせいで、俺はお前を殺そうと思ったんだぞ。お前が悪い。そう、お前が悪いんだ!」

 唾を飛ばしながらエルヴィンが怒号する。

「しかも目覚めた上に、その男と幸せになろうとしているんだろ?どこまでお前は生意気なんだ!俺たちをこんな目に合わせて置いてお前は一人のうのうと幸せになろうだなんて、許されるわけないだろうが!」
「ふざけるな!元はと言えばお前が無能でダメな男だからだろうが!お前が断罪されたのも、イライザたちが追放され苦しい生活を強いられたのもお前に王としての資格も素質もないからだ!自分を棚に上げてローラのせいにするな!」

 ローラを庇うように抱きしめながらヴェルデが叫ぶ。ヴェルデの腕の中で、ローラは信じられないものを見るような目でエルヴィンを見つめていた。

(ああ、本当に、エルヴィン殿下だわ……イヴは、イヴはどうなってしまったの……)

 涙を浮かべてエルヴィンを見つめるローラを庇うようにしてフェインも近くに立っている。

「はあ?俺のせいだ?黙れ、異国の愚民が。……まあいい、お前ら全員殺してやる。その前に」

 そう言って、近くにいたイヴの兄の腰にかかっている剣を鞘から抜き、ローラに剣先を向けた。

「ローラ、こっちに来い。来なければこの男、イヴの体を八つ裂きにして二度とイヴがこの世を生きることができないようにしてやる」
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