薬師見習いの恋
 そんな知識を得たところで、とひややかに静観していた村人たちは、マリーベルがロニーの代わりに調薬を始めると驚くとともに喜んだ。

「これでロニー先生が村を出て行っても安泰だ」
 無邪気に語られる言葉はマリーベルの胸をえぐる。

 ふらっと村にやってきたロニー。銀蓮草を手に入れられなければ――手に入れたとしても村を出て行くだろう。それは村中の人が知っている。

 その日は遠くないに違いない。一年近く村にいて見つからなかったのだ。
 彼は手が空くたびに村中を歩いて隅々まで探し回り、たまに来る行商にも銀蓮草のことを尋ねた。

 そうまでしても見つからなかったのだ。
 今年、冬になる前に彼は出て行くかもしれない。

 どうにかしてひきとめたい、だけどどうしたら。
 答えのない問いは、毎日のようにマリーベルを悩ませる。

「……考えても仕方ないわ」
 彼女は顔を上げ、ぐっと前を見据える。

「探して探して探しまくって、きっと見つけて見せる。そうすれば、ロニーは村を出て行ってもまた戻って来てくれる」
 見たこともない銀の花を思い描き、マリーベルは決意を新たにした。



 ルスティカ家の屋敷に着くと、マリーベルは玄関ドアについているライオンのドアノッカーを三回ノックした。輪っかを咥えたライオンを眺めてしばらく待つと、メイドが静かにドアを開けた。

「あら、マリーじゃない。おはよう」
「おはようございます。お薬を届けに来ました」
「ご苦労様、奥様にご案内するわね」
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