薬師見習いの恋
 とはいえそのほとんどは都市部に集中し、こんな田舎には医師どころか薬師もいない。医者にかかりたければ歩いて二日の隣町に行くしかなかった。

 こんな田舎にどうして、と尋ねると、銀蓮草を探してこの村に辿り着いたと彼は言った。

 銀蓮草は彼から初めて聞く名前だった。
 このあたりで発見の報告があったんだ、と彼は語った。
 睡蓮に似た銀色の花を咲かせる希少な薬草で、万能の薬として知られ、高値で取引されている。

 冬の間、彼はそのままマリーベルの家で暮らした。
 マリーベルはロニーから読み書きを教えてもらい、熱心に勉強した。

 春になってルスティカの奥様が療養のために別荘に来たとき、体調を悪化させた彼女のためにロニーが呼ばれた。
 そのときに処方した薬が体に合っていたとかで、ロニーは村に住居を用意してもらえた。

 ロニーが家を出ることは悲しかったが、村から出て行くわけじゃないし、とマリーベルは自分に言い聞かせた。
 その後、ロニーは村の薬師として薬を作り始めた。

 マリーベルはすぐに弟子を名乗り、彼の家に入り浸った。
 彼は彼女の頼みに応じて薬草を教え、処方を教えた。

 ハーブなら多少は馴染みがあったが、初めて知ることも多かった。
 毒草のジギタリスが調整することで強心薬として使えるとは知らなかったし、薬になる石——正確には鉱物だが——があるなんて知らなかった。

 かつては人間のミイラを薬としていた時代があると聞いて震えた。そんな時代に生きていなくて良かった、と安堵もした。
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