薬師見習いの恋
 すっかり顔見知りになった彼女に笑顔を見せ、マリーベルは中に入る。
 奥様のハンナ・グレイスル・ルスティカがいるリビングに着くと、そこにはルスティカ家の長男、アシュトンがいた。
 彼が来ていたとは知らず、マリーベルは少なからず驚いた。

 にこやかなハンナとは対照的に口をへの字に曲げて鼻に皺を寄せている。そうしていると垂れた小さな濃茶の目と団子鼻が強調されて、丸顔の彼の童顔さが強調される。母親譲りの赤茶の髪は丁寧に髪型をセットされ、着ている上質の服からも貴族らしい華やかさがあった。

 アシュトンは子供の頃から夏になるたびに避暑に来ていたため、マリーベルやタリアなど同年の子供たちとは仲がいい。子供のころは身分に関係なく一緒に遊んでいた。

 だが、最近のアシュトンには少し距離を感じていた。見るたびに不機嫌そうで、とげとげしい彼を見るたびに心が痛かった。

 去年まではそんな素振りはなかった。
 ロニーがいるからだ、といつだったかタニアは言った。

『アシュトンは顔がちょっとあれだから美しいロニーにコンプレックスがあるのよ。マリーがロニーと仲良くしているのも気に入らないの』
 タニアの分析はとても腑に落ちるものだった。

 村人の誰もがロニーの美貌には引け目を感じるだろうし、マリーもまたロニーの美しさにはたじろぐ。
 タニアがほかの友達と自分以上に仲良くしているのを見るとなんだか妬けてしまう。
 アシュトンもまた、そういうたぐいの嫉妬をしているのだろうと思っていた。

「今日もありがとう。助かるわ」
 儚げな笑みを浮かべるハンナに薬の入った紙袋を渡す。
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