薬師見習いの恋
「おいおい、かわいそうだろ。そうだ、俺が彼女をおぶってやろうか」
「あなたには任せません」
 からかうように言うフロランに、ロニーは渋面を作って即答する。
 くつくつとフロランは笑い、マリーベルはよくわからなくて首をひねった。その目が淡く輝くなにかを捉える。

「あんなところにも月露草が生えているわ」
 ぽつんと咲いているそれを見つけ、マリーベルは言う。

「清流のそばでなくても咲く場合もあるのですね。興味深い」
 薬草に目がないマリーベルとロニーの様子に、フロランは苦笑する。

「とにかくまずは森を……」
 言いかけたフロランが言葉を切って立ち止まる。

「どうしました?」
 たずねるロニーに、フロランは口に指を当てて黙るように指示する。
 彼が耳を澄ませている様子に、マリーベルもまた耳をすませた。
 どこかから荒い鼻息が聞こえる。ふがふが、ふごふご、ブタに似たその音は。

「イノシシか?」
「こんな時間に?」
 フロランとロニーが顔を合わせる。

「魔獣……」
 マリーベルは小さくつぶやいた。

「この前、イノシシに似た魔獣を見たわ、角があって、背中にトゲがあって……」
「マリー! やっぱり!」
 小さな声でロニーが咎めるように言う。
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