薬師見習いの恋
「あそこにあるのは万能薬なのよ!?」
「月露草だけで満足するべきです。帰りましょう」
 ロニーに手を握られ、マリーベルは未練がましく魔獣を見た。

 魔獣は月露草をむしるように食べていたが、ふいに顔を上げてマリーベルと目が合う。
 しまった!
 思ったときには遅かった。
 魔獣はマリーベルたち目がけて突進してくる。

「逃げろ!」
 フロランの号令でロニーがマリーベルを連れて走り出し、フロランが最後に走り出す。
 魔獣は大木にぶつかっていったん足を止める。

 が、すぐに方向を変えて三人を追う。
 はっはっはっと魔獣の発する荒い息がどんどん近付いてくる。

「このまま逃げても追いつかれる。適度に曲がれ!」
 フロランが叫ぶ。

「しかし迷う可能性が」
「言ってる場合か!」

 怒鳴られたロニーは言われたとおりにマリーベルの手をひいて右へと折れる。
 魔獣は突進して木にぶつかり、どっしりと倒れ込んだ。やや遅れて、木はめりめりと音を立てて倒れた。

「……気絶したのか?」
「どうやらそのようだな」
 フロランは息をついた。
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