薬師見習いの恋
「しょせんは獣か。今のうちに逃げるぞ」
「待って、チャンスよ。今のうちに銀蓮草を」

「ダメだ」
「いいえ、私はいくわ」
 フロランが止めるが、マリーベルは聞かない。ポーチに伸ばしたその手をロニーが掴む。
「それなら私が行きます」

「お前たちは」
 フロランはあきれはてた。

「銀蓮草はその雫の一滴でたちまち病気を治すと言われています。チャンスがあるなら逃す手はありません」
 ロニーの言葉にフロランは大きく息を吐いた。

「わかった、俺が行く。お前たちはここで待て」
「しかし」
「武器を持っているのは俺だけ、つまり魔獣が目を覚ましたときに対処できるのは俺だけだ」
 月露草が入っている袋をロニーに渡し、フロランが剣を抜いて言う。

「では頼みます」
 ロニーが言い、フロランが頷く。

 フロランは静かに魔獣に忍び寄る。その足取りはゆるやかで、マリーベルたちは固唾をのんで見守った。
 落ち葉を踏みしめる足音すら、今は大きく耳に響く。

 ぽとり。
 小さな音にマリーベルは飛び上がりそうになる。
 いが栗が木から落ちただけだと気がついて、深呼吸して心臓をなだめた。

 静かに静かに、フロランは剣を植物の茎の根本に当てる。
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