薬師見習いの恋
「こちらは飲み薬、こちらはポマンダー用のものです」
 ポマンダーは球状や楕円、洋ナシ型など形は様々だが、その中に香料や香草を入れて病魔を寄せ付けないようにするものだ。携帯用、置き型、吊り下げ型がある。

 マリーベルは実際の効果を疑っているが、ハーブの香りが漂うので香水代わりにいいのかもしれない、とも思っていた。
 病魔を退けたいハンナのために、魔除け効果があると言われているセージ、ヤロウ、ゼラニウム、ローズマリー、ルー、ミントを配合していた。セージやゼラニウムには抗菌や殺菌効果もあるから、ある程度は病気の予防になっているのかもしれない。ゼラニウムは妊婦には禁忌とされているが、ハンナは妊娠していないので大丈夫だ。

 ハンナは受け取った薬をメイドに渡し、メイドは薬箱に薬を入れる。

 薬箱も貴族にふさわしい美しい物だった。木製の箱の外側には華やかに薔薇の絵が描かれており、ところどころに金彩が施されている。中に入っている薬壺は有名なゼノリ焼きで、シンプルながら気品が漂っていた。ラベルにすら美しい装飾が入っていて、そのまま観賞用に飾れそうだ。

 中に薬を入れるのを待ってから、ハンナは首から下げていたペンダント式ポマンダーをメイドに渡す。土台は銀で透かし模様が美しく、金の装飾が施されていた。

「これも入れ替えておいてちょうだいね」
「かしこまりました」
 受け取ったメイドは一礼して部屋から出て行った。

「体調はいかがですか?」
 マリーベルの問いに、ハンナは笑みを返す。
「お薬のおかげでだいぶいいわ。ロニーの勧めてくれたダイズのおかげもあるかしら。スープに入れていただいているわ」
< 13 / 162 >

この作品をシェア

pagetop