薬師見習いの恋
「槍みたいなの、作れないかな。投げて刺すの」
「刺せるほどのものは無理でしょう」
 ロニーの言葉に、マリーベルはうつむく。素人の浅知恵ではどうにもならないらしい。

「お前らだけでも村へ行け。ルーに寄ってこないなら、救援を呼んでくれるまでここで粘る」
 マリーベルは驚き、ロニーは首をふった。
 魔獣はふがふがと鼻息を鳴らしながら油断なくマリーベルたちを見ている。

「あいつは私たちが動いたら追って来るでしょう」
「俺が囮になる」
 フロランは即答する。

「そんなこと、させられるわけがありません」
 ロニーはそう言って周囲を見回し、ルーのすぐそばに生える木に目を止めた。

「この木はイチイですね」
「そういえば、その木を利用したくくり罠があったわ。罠であいつを捕まえるのは?」

「あの巨体をくくり罠で捕まえることは無理でしょう。都合よく罠にはまってくれるわけもありません。それより……フロラン殿、剣を貸してください」
「どうする気だ」

「弓を作って、ルーの矢を射かけます、剣を貸してください」
「あの巨体が弓矢ごときでどうにかなるか?」
 半信半疑ながらもフロランは剣を渡す。

「なにもせずににらめっこを続けるよりはマシでしょう。マリーはナイフを持ってますね。矢を作ってください。ルーの節を削って先端を尖らせて。それと、そこの蔦を切って樹皮を剥いでください」
「わかったわ」

 マリーベルはルーの汁で手がかぶれないようにするため皮手袋を取り出して手に嵌め、なるべく直線になっているルーの枝を選び、何本も折った。
< 125 / 162 >

この作品をシェア

pagetop