薬師見習いの恋
 矢は届かず、イノシシの手前に落ちた。
「そんな簡単には行かないな」
 ロニーはひとりごちて前に進み出る。

「ロニー、危ないわ」
「射程が短いなら前に出るしかないですからね。あなたはそこで待っていてください」
 魔獣は状況の変化を悟ったらしい。
 鼻を鳴らしてロニーを見据えて臨戦態勢になる。

「援護する」
 フロランが左手で剣を握り、ロニーの横に立った。
 マリーベルは無力さに歯噛みした。
 今はただ祈ることしかできない。

 ロニーは再び矢を射る。
 矢は魔獣の目の前の地面に刺さった。魔獣は攻撃されたことに激高し、ロニーに向かって突進する。

「危ない!」
 マリーベルが叫ぶが、ロニーもフロランも動かない。充分にひきつけてからふたりは横っ飛びにとんで魔獣をよける。
 木にぶつかってから、魔獣は体の向きを変えた。

「ロニー……」
 マリーベルの口から愛しい人の名前がこぼれる。

 ロニーは魔獣だけを見て必死に弓をひきしぼる。
 魔獣が突進してきて、ロニーはその額に向けて矢を放ち、ただちに逃げる。
 矢はゆるく額に刺さり、魔獣は大きく首を振ってその矢を振り払う。
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