薬師見習いの恋
「レミュールでは金持ちばかりに薬を売る薬師がいる。ろくに話を聞かずに薬だけを処方する薬師もいる。ロニーはそれらとは一線を画す、稀にみる善き薬師だ!」
 アシュトンの発言に、村人はざわつく。

 彼がロニーを追い出そうとしたことは村人の誰もが知っている。そのアシュトンがロニーをかばったことで、動揺が広がった。

「うちのおばあちゃんもロニーの薬でよくなったの。ルタンのご両親だってサミエルの弟だって、マリーベルとロニーが作った薬で良くなったんだわ。ルタン、なんでそのことを無視してるのよ!」
「それは……」
 ルタンはとっさにタニアに反論できない。

「私も助けてもらったわ!」
 群衆の中からリリアンが叫び、幼い男の子――サミエルの弟の手を引いて現れ、タニアの隣に立つ。

「サミエル、あんた見損なったわ」
 リリアンに片想いをしているサミエルは彼女の言葉に愕然とする。

「兄ちゃん、もうやめてよ」
「お、俺は村のために……」
 まだ幼い弟に泣きそうな声で言われ、サミエルはうろたえる。

 続いてジゼールとクレマも村民の間を縫って前に来た。
「私たちもそうよ、みんなそうでしょ、疫病の前もロニーのお世話になってたわ」
「お腹を壊しただの熱を出しただの、頭が痛い、胃が痛い、みんなロニーの薬のおかげで良くなったって言ってたじゃない!」
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