薬師見習いの恋
 ロニーのことは好きだが、彼と結婚する未来は想像の中にしかなくて、だから現実の結婚のことも考えたくはなかった。

「王都には素敵な人がいっぱいいるんでしょうね」
 マリーベルは見たことのない王都レミュールを思い浮かべる。

 石造りの建物が立ち並び、豪華な馬車が行き交うという。見たことがないからそれらがどのようなものなのかわからない。村に建つのは簡素な木の家ばかりだし、貴族の馬車といえばルスティカ家のものしか見たことなくて、それより豪華というと馬車のキャビンが黄金でできているのかな、という貧相な発想しかない。

 そこに住む人たちはこのお屋敷のような建物に住んでいるのだろう。この村には祈りの場は聖祠くらいしかないが、石造りの立派な教会があるに違いない。
 さらにはその華麗な街を行き交う人たちは流行の服に身を包み、村人たちとは違ってお化粧も装飾も優美で、きれいな人ばかりに違いないのだ。

「だけど誰も彼も気に入らないって言うのよ。周りはもうみんな婚約してるのに」
 ハンナがため息混じりにつぶやくと、
「ほっとけよ」
 いらだちを隠そうともせずアシュトンは言う。

「王都では今、なにが流行ってるんですか?」
 話題を変えようとマリーベルが言うと、ハンナは目を笑みに細めた。

「夫からの手紙では、東洋のものがいろいろと入ってきて、あちらのエッセンスが入った家具や絵画が流行っているそうなの。エキゾチックで素敵なんですって。帰ってからが楽しみだわ」

 マリーベルは目を輝かせた。
「道にはハーブがまかれていて、人が歩くたびに芳香が漂っているんですよね」
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