薬師見習いの恋
「昔みたいに普通にしゃべれよ」
「ですけど、身分が違いますから」

(ここ)にいるときくらい、いいじゃねえか」
 マリーベルは返答に困った。もう幼くはないのだから、子供時分に許されたことでも今は許されない。

「……なあ、レミュールに一緒に来ないか?」
「え?」
 唐突な誘いに、マリーベルは目を見開いた。

「薬の勉強したいんだろ? こんな田舎よりあっちのほうがよっぽど進んでる。女性だって今は大学に行ったりしてるんだ」
「だけど、私の家にはそんなお金はありません」
 この村のたいていの者がそうだが、マリーベルの家もまた貧しい。

 彼女の父は猟師だったが、森への立ち入り禁止が言い渡されてからは猟ができず、ルスティカ家で小作人として雇われていた。その収入は決して多いものではない。

「学費はうちが出す。だから一緒に来いよ」
「そんなわけには……どうして急にそんなことを」

「急じゃない。ずっと考えてた。うちの両親も賛成してる。レミュールの俺のうちに住んで学校に通って薬師になればいい。そうしてずっと母を診てくれ」
「でも、王都ならいいお医者様も薬師様もいらっしゃるでしょう?」

「母は君を気に入ってるんだ」
 むすっとしてアシュトンに、マリーベルはますます困ってしまった。

「だけど、そしたらこの村に薬師がいなくなるかもしれないわ」
 思わず敬語も忘れて言うと、アシュトンは目を細めた。それがどことなく意地悪そうに見えてマリーベルは居心地が悪い。
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