薬師見習いの恋
 自分もロニーもいなくなれば村に薬の知識を持つ者がいなくなってしまう。
 いや、自分がいなくなれば優しいロニーは村に残ってくれるかもしれない。

 ロニーに村にいてほしい。だけどそれは一緒にいたいからで、自分が村を出るのであれば彼が村にいても意味がない。

 最悪の場合、もし自分がレミュールに行っている間にロニーが出て行ってしまったら。さよならの挨拶すらできないのであれば、そんな切ないことはない。

 はあ、とため息をついてうつむくと、手にしたかごが目に入った。山葡萄の樹皮を剥いで自分で作ったかご。中はからっぽで規則正しい網目が見えている。
 自分の頭もからっぽにしたくなって、マリーベルは衝動のままに走った。



 気がつくと森に来ていた。
 来ちゃいけないって言われてたのに。

 そうは思うが引き返す気にもなれなくて、そのまま薬草を探す。この辺りなら村に近くて獣もさほど出ないはずだ。

 秋だからナツメやイヌバラ、イチイの実が見つかった。腰につけたポーチから皮手袋を出して手にはめて、それらを摘む。ナツメは滋養強壮にいいし、貧血の予防、血行の促進にもいい。イヌバラの実は美肌効果があり健康にもいい。生の実はお腹を下すから下剤にするときもある。イチイの実は食べられるが、茎や葉、種は有毒だ。その枝は柔らかくて弓に使われる。

 栗やりんごを見ると、それも採集したくてうずうずするが、持って帰ると森に来たことがバレるからできずに我慢する。

 薬草になる草を探しながら、銀蓮草も探す。
 実物を見たことがないから大きさなど詳細はわからない。
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