薬師見習いの恋
「お前が告げ口したな?」
「人聞きの悪い。アシュトン様に聞かれたので、正直にお答えしただけのことでございます」
 午前中にアシュトンが訪ねて来て彼女のことを聞いたので、ロニーはそれに答えたのだ。

「覚えてろよ」
「さて、記憶力が悪いもので」
 とぼけるロニーに、思わずマリーはくすっと笑う。

「エルベラータ様、御身の御安全のためにも」
 モリスが言うと、エルベラータはあきらめたようだった。
「……お前たちの負担も考えねばな」
 エルベラータはアシュトンに向き直る。

「すまないが、しばらく世話になりたい」
「お気のすむまでご滞在ください」
 アシュトンは慇懃に頭を下げた。

 食事の片付けをマリーベルとロニーに任せ、エルベラータはアシュトンの乗って来た馬に乗り、アシュトンとお供たちは歩いて屋敷に向かう。
 その後ろ姿を見送り、マリーベルはロニーにたずねる。

「あの方はどういうお方なの?」
 貴族のアシュトンが丁寧に接するなんて、そうとう身分の高い貴族なのだろうか。

「友人です。すぐに王都に帰る方ですよ」
 ロニーの優しい拒絶にマリーベルは切なくなる。心の中に入れてもらえなかった、そんな気がしてならない。
 そしてエルベラータが帰るときにはロニーもいなくなってしまう、そんな予感がする。
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