薬師見習いの恋
「ロニー」
 行かないで。そう言いたいのに声にすることができなくて、マリーベルは黙り込む。

「どうしました?」
「……なんでもない。片付けたら薬草を探しに行くね」

「毎日すみません」
「薬師のお仕事を教えてもらってるお礼だから」
 薬草を探して渡したあとは一緒に加工をして、調合の仕方も教えてもらっている。

 その日々はあとどれくらい続けられるのだろう。
 マリーベルは空を見上げた。ただ青く広がるそこには、白い雲が流れるように浮かんでいた。



 片付けを終えたマリーベルは家に引き返して普段着に着替え、すぐに森に向かった。

 入ってはいけないと言われている。だが、村の近辺に生えている薬草はだいたいロニーの家にストックがあるものばかりだ。
もっと貴重な薬草を手に入れなければ。そうでなければ、あの人には勝てない。

 マリーベルの脳裏にエルベラータの上品でさわやかな笑みが浮かぶ。

 幻の薬草と言われている銀蓮草は、今まで村のどこからも見つかっていない。あと探していないのはこの森だけだ。

 魔物がいたら逃げればいいだけだわ。
 マリーベルは拳をぎゅっと握って森に入って行った。

 迷わないように木の枝を折って印をつけ、下生えを踏み分けて進む。
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