薬師見習いの恋
緑は徐々に濃く深くなり、日の光を遮って薄暗くなる。転がる岩や倒れた大木には苔がびっしりと生え、木の幹に巻き付く蔦の葉が吹き過ぎる風にゆらゆらと揺れる。気温が下がったようで、マリーベルは体をぶるっと震わせた。
鳥がぎいぎいと不吉な声を上げて飛び去る。
びくっとしてから、落ち着くために深呼吸をする。
「今のはただの鳥。なにもいない、大丈夫」
自分に声をかけ、慎重に周りを見ながら歩を進め、ハッと足を止めた。
イチイの木の枝に罠があることを示す布が縛られていて、それで古いくくり罠に気が付いた。近くには動物の骨が散らばっている。
弓の材料にも使われるイチイはよくしなるので、罠はその枝をバネがわりに縄を結び付けて作られていた。罠にはまった動物がいたが、森は立入禁止になったために動物は狩られることなく罠から逃れることもできず、命が尽きたのだろう。
マリーベルは手を組んで祈りを捧げた。
猟師である父と一緒にマリーベルもくくり罠を作ったことがある。
そのときに父は言ったのだ。命をいただくのだから、無駄にしてはならない、と。誰が作った罠か知らないが、無駄に命を散らすことになってしまって申しわけなかった。
ふと、すぐ近くにルーが生えていることに気がついた。
ルーはヘンルーダとも呼ばれる。かつては薬用とされていたが毒性があることがわかり、今では香りを楽しむためにしか使われない。ミカン科の常緑の多年草で通常は草丈五十から九十センチほどで、六月から七月には黄色の花を咲かせる。木質化してまるで木のようになることがある。このルーもまた木質化しており、マリーベルの背丈ほどの高さがあった。
鳥がぎいぎいと不吉な声を上げて飛び去る。
びくっとしてから、落ち着くために深呼吸をする。
「今のはただの鳥。なにもいない、大丈夫」
自分に声をかけ、慎重に周りを見ながら歩を進め、ハッと足を止めた。
イチイの木の枝に罠があることを示す布が縛られていて、それで古いくくり罠に気が付いた。近くには動物の骨が散らばっている。
弓の材料にも使われるイチイはよくしなるので、罠はその枝をバネがわりに縄を結び付けて作られていた。罠にはまった動物がいたが、森は立入禁止になったために動物は狩られることなく罠から逃れることもできず、命が尽きたのだろう。
マリーベルは手を組んで祈りを捧げた。
猟師である父と一緒にマリーベルもくくり罠を作ったことがある。
そのときに父は言ったのだ。命をいただくのだから、無駄にしてはならない、と。誰が作った罠か知らないが、無駄に命を散らすことになってしまって申しわけなかった。
ふと、すぐ近くにルーが生えていることに気がついた。
ルーはヘンルーダとも呼ばれる。かつては薬用とされていたが毒性があることがわかり、今では香りを楽しむためにしか使われない。ミカン科の常緑の多年草で通常は草丈五十から九十センチほどで、六月から七月には黄色の花を咲かせる。木質化してまるで木のようになることがある。このルーもまた木質化しており、マリーベルの背丈ほどの高さがあった。