薬師見習いの恋
 マリーベルはポーチから皮手袋を取り出し、手にはめた。ルーを折ろうとするがうまく折れなくてナイフを使ってなんとか切り取り、動物に手向ける。
 それから再び歩いていると、開けた場所があることに気がつき、導かれるように向かう。

 木々が切れると眩しい光が溢れ、きらきらと流れる小川が現れた。
 ほっとして水に手を入れると冷たさが心地よい。
 そのまますくって口に含むと、乾いた喉が一気に潤った。

「ああ、おいしい」
 ごくごくと飲んで、近くの岩に腰掛ける。
 随分歩いて来たが、薬草はひとつも見つからなかった。
 このまま帰るわけにはいかない。いつもこういうときはタンポポやオオバコを摘んで帰っていた。オオバコは傷にいいとされ、肌荒れ防止効果もあると言われている。

 もっとちゃんと薬草らしい薬草を摘みたかったのに。
 マリーゴールドやエルダーフラワーは万能の薬と言われていて、村の敷地でもある程度は育てられている。
 クローブは胃腸に良いとされているが、収穫時期はもう少し先だ。

「メリッサ、フェンネル、ラベンダー、リンデン、アーティチョーク……」
 覚えた薬草の名前を並べ立ててみるが、そんなことをしたところで都合よく手に入るわけではない。
ため息をついた目の隅に、白い花が映った。

 スズランか、とため息をつく。
 スズランは全体に毒があり、嘔吐、頭痛、めまいなどを起こし、血圧低下、心臓麻痺を起こして少量でも死に至ることもある。通常、五月から六月にかけて開花する。

 そう思ってから、気がつく。
 おかしい、秋に咲いているなんて。
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