薬師見習いの恋
「いらっしゃい、今日も痛み止めかしら」
「腰が痛くて痛くて。先生の薬はよく効くから」

「マリー、頼んでいいですか?」
「わかったわ」
 マリーベルは壁の薬棚に向かった。

 薬棚には様々な薬が種類ごとにずらりと並べられている。透明な瓶もあれば茶色の瓶もあり、陶器製のものもあった。乾燥したハーブやアルコールで生薬の成分を抽出したチンキ、行商から仕入れた薬やその材料。それぞれにラベルが貼られ、名前や効果効能が記されている。

 マリーベルは痛み止めの粉薬を天秤で量って紙袋に入れて、薬瓶を棚に戻した。

「はい、マーゴットさん。いつも通り飲むときは小さじに半分。飲み過ぎは毒ですからね。必ず容量と用法は守ってくださいね」
「ありがとう。もうマリーベルも一人前ねえ」
 マーゴットが目を細めるが、マリーベルは慌てて手と首を振る。

「私なんてまだまだよ」
 謙遜が半分、そうなっては困るのが半分でマリーベルは言った。
 もし自分が一人前になったら、ロニーは出て行ってしまうかもしれない。
 それが最近のマリーベルのジレンマだった。

「おふたりさんの結婚はいつだい?」
 聞かれて、マリーベルの顔は瞬時に真っ赤になった。

「そんな予定はないですよ」
 くすくすとロニーが笑いながら否定した。
 やっぱり、とマリーベルはぎゅっと目を閉じた。
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