薬師見習いの恋
 本当ならすぐにでも村を追い出したかったが、母が体調を崩したときに効果的な薬を投与し、なおかつ母に気に入られたあとではそれもかなわなかった。

 だから母に言ってすぐに別の家を用意させた。
 いつまでも人の家に厄介になっているのは苦痛のはずだ、別で家を用意してあげるべきだ、と。
 それもそうね、と母はすぐに空き家を彼に貸し出した。

 マリーベルのみならず、母までロニーを気に入っているし、村の娘たち……いや、娘たちはおろか、村の全員がロニーをほめそやしている。

 顔がいいからって。
 アシュトンはロニーを憎んだ。
 彼は外見にコンプレックスがあった。丸顔に小さな目、団子鼻。どうあっても自分は美男子のたぐいではない。

 だが、ロニーは外見ばかりか薬師の才能まで持っている。財力も権力もなくてもマリーベルだけではなく村人も、母までも魅力で虜にしてしまう。

 神は平等ではない。贔屓の者には恵んでばかりで、自分は残りかすで作られたに違いない。
 すべてを持っているロニーがマリーベルすらも奪っていくのか。

 そんなの許せるはずがない。せめて彼女だけはそばにいてほしい。
 いきなり結婚を言い出しては反対されるに違いないし、マリーベルにも断られるだろう。まずは距離を縮めることから始めようとした。

『マリーはあれだけ熱心に薬師を目指しているのだから、レミュールで勉強させてあげてはどうか』
 彼女を気に入っていた両親はすぐに提案に賛成してくれた。

 彼女の両親は本人にやる気があるならと賛成してくれている。あとは本人が「うん」と言うだけだった。
 あと少しで一緒にレミュールに行けるところだったのに、肝心のマリーベルが乗り気ではないのは誤算だった。
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