薬師見習いの恋
 だからロニーを村から追い出した。エルベラータが彼をレミュールに連れ帰りたいと言っているのをいいことに、母にも無断でロニーに退去を言い渡し、母には彼がレミュールに帰ると言っていると伝えた。マリーベルが王都に来ないなら、ロニーを追い出せばいいと思ったのだ。

 エルベラータがロニーの代わりにと手配した医者が、よりにもよって医者である彼が病気を持ち込んだ。
 神はどうして疫病をこの村にもたらしたのか。

 ……まさか、自分が罰せられているのか。
 気がついて、アシュトンはがくりと膝をついた。

 いや、そんなの迷信だ。少なくともエンギア熱は細菌というものが原因だと聞いている。
 だが、その細菌がもたらされたのは神の御意志なのかもしれない。

 神はすべてをご覧になっているのか。
 だけど、誰を失おうとも、マリーベルだけは失いたくない。

 そう思っていたときに、ルタンとサミエルが屋敷を訪れ、王女の陰謀疑惑をアシュトンに伝えた。
 正直なところ、なにが正解なのかわからない。

 だが、自分の罪ではないと思いたい彼は無意識にその陰謀論に染まりかかっていた。

 エルベラータが犯人ならば、自分が悪いわけではない。
 ロニーとエルベラータに踊らされて必死になっているマリーベルがかわいそうだ。
 危険な森にまで行って薬草を手に入れようとするなど。

 だが、このまま村にいては彼女まで感染してしまう。地下室に閉じ込めておけば、彼女を病魔からも魔獣からも助けることができるはずだ。
 たとえ自分が病に倒れて命を奪われたとしても、彼女だけは助ける。
 アシュトンはそう心に誓っていた。
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