薬師見習いの恋
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マリーベルから届けられた薬を分けてもらったフロランは、エルベラータの元へと赴いた。
「薬が届きました」
「私はいい、ほかの者に」
「我がままをおっしゃいますな。あなたが命を落とせば多くの者が罪に問われます」
「私は軽症だというのに」
立て続けに咳をしながら、かすれた声で彼女は言う。
やせ我慢をする彼女に、フロランは、なおさら王女を失うわけにはいかないと思う。やがて良き伴侶を得て国王を支え、国を良き道へと導いてくれるに違いないのだから。
「軽症とは言えますまい。かかったことがあるなどと嘘を言ってお手伝いなどなさるから感染するのですよ」
「さすがに説教は勘弁してくれ」
高熱で火照る頬に無理矢理の笑みを浮かべ、エルベラータは言う。
痛々しい、とフロランは目を細める。
若い自分は死ぬことはないと言い切る王女だが、苦しさにかわりはないはずだ。続く咳に体力を奪われ、高熱に消耗させられる。水で冷やしたタオルを額に載せてもすぐに熱を持ち、交換はかなりの頻度になる。熱による関節痛もそうとうのはずだし、喉の痛さに食事もままならないようだった。
通常の風邪ならば侍女でもそばに侍らせて看病をさせるが、現状ではエンギア熱の感染予防のためにそれすらも患者本人が行わなくてはならない。