薬師見習いの恋
「マリーは大丈夫なのか」
「そのようです」

「モリスはどうだ」
「かなり危ういようです」
 ともにエルベラータの護衛を務めるモリスは感染してしまい、熱が下がらない。呼吸に喘鳴(ぜいめい)が混じり、診察した軍医は、肺炎を起こしていてこのままでは危ない、と言った。彼の年齢でここまで悪化するのは症例としては少ない、とも言った。

 モリスはまだ四十代、レミュールには家族が待っている。こんな辺境で落としていい命ではない。
 ——王女を守った名誉ある殉死ならまだしも、病死だなんてことになったら本人も家族もやりきれないだろう。
 フロランは苦々しくそう思う。

 エルベラータに薬を飲ませて部屋を出た彼は、アシュトンが従僕と言い争っているのを見た。
「なぜマリーを止めたんですか!」
「なんのことだ」
 アシュトンは不機嫌そうに従僕に答える。

「マリーは森に薬草があると言っていたじゃないですか」
「お前の聞き間違いだ」

「ですが……」
「なんども言わせるな!」
 怒鳴るアシュトンの声はイラついていて、とても冷静とは言えない。

「いいか、余計なことを言うなよ、言ったらどうなるかわかるな?」
 どすのきいた声に従僕はすくみ上る。仕事のないこの村で職を失ったら食べていけない。
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