薬師見習いの恋
「……申し訳ございません」
 従僕が謝罪をすると、アシュトンはどすどすと大きな足音を立てて歩き去った。

「おい」
 フロランに声をかけられ、従僕は飛び上がらんばかりに驚いた。
 フロランもまた貴族であり、従僕である彼とは身分が違う。アシュトンよりも高位の貴族のようで、アシュトンも奥様もフロランに丁寧に接していた。なおかつレミュールから来た貴族ともなれば洗練された雰囲気が従僕の緊張をいやがおうにも高めた。

「薬草について話していたようだが」
「な、なんでもございません!」
「ではアシュトン殿に聞くか」
 フロランが脅すように言うと、従僕はすくみ上った。

「おやめください、どうか……」
「ならば知っていることを教えてくれ。安心しろ、アシュトン殿にはなにも言わない」
「……絶対ですよ」
 従僕はおどおどと周囲を見回し、誰もいないことを確認してから話しだす。

「マリーが……見習いの薬師が、よく効く薬草の場所を知っているようなんです。しかしアシュトン様が採取を許さず、地下室に閉じ込めてしまって……」
 従僕がため息交じりに言う。

「私の母も病に倒れ、心配で心配で」
「心配なのは誰しも同じだ」
 突き放すようにフロランが言うと、従僕はしょんぼりとうなだれた。
 フロランは腰の剣を抜くと、いきなり従僕に向けた。
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