薬師見習いの恋
「な、なにを……」
「地下室の薬師の元へ連れていけ。今すぐに」
「は、はい!」
 従僕は慌てて歩き出す。その足は恐怖に震えている。

 ……少し脅し過ぎたか。
 フロランは剣を鞘に戻し、いや、と思い直す。
 なにかあったときに責を負わないよう、俺に脅されたのだと思っていたほうがいい。

 地下室へ続く地下道は暗く、従僕の持つ燭台程度では充分な明かりとは言えなかった。おぼつかない足取りでフロランを案内する。

 地下室の前には見張りはなく、従僕は持ってきた鍵で扉を開けた。
 中でうずくまっていた少女ははっとしたようにフロランと従僕を見た。

***

 どうしてこんなことに。
 マリーベルは薄暗い地下室でため息をつく。

 高い位置にある小さな窓からはわずかに光が差し込み、かろうじて中の様子がわかった。
 倉庫として使われているそこには普段は使わないであろう荷物が置かれていた。埃っぽいにおいが充満し、寒くて居心地が悪い。

 扉は鍵がかけられていて、どれだけ引っ張っても押してもびくともしなかった。
 扉を壊せそうな道具も見当たらず、高い位置にある窓には手が届かず、もし届いたとしても抜け出せるほどの大きさはない。それで壁際にうずくまってどうするべきかを考えていた。

 だが、なにもいいアイディアは浮かばず、ため息ばかりが生まれる。
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