薬師見習いの恋
 魔獣は確かに危険だけど、閉じ込めるだなんて。

 アシュトンはわかっているのだ。ただ止めるだけではマリーベルが森に行ってしまうことを。
 だが、今は緊急事態だ。自分の身だけを守ればいいという話ではない。

 気がつけば地下室を出る方法ではなくアシュトンのことを考えていた。
 初めて会ったときのアシュトンは恥ずかしそうにしていた。
 村の子供たちの勢いに気圧されて萎縮していたから、慌ててみんなを止めた。
 それで彼がホッとした様子だったから、マリーベルもホッとして、大丈夫だよ、と笑って見せた。

 その後、アシュトンはすぐにみんなと打ち解けた。
 子供の頃は身分のことなどよくわかっていなかった。
 大人たちの前では殊勝にしていても、子供たちだけになるともう無礼講だ。
 性別など関係なく野原を駆け、泥んこになって遊んだ。小川で水遊びをして全身ずぶぬれになり、一緒に大人に叱られたこともある。

 アシュトンはなぜかときどきマリーベルに意地悪をした。だけどすぐに謝ってくれて仲直りをした。
 いつの頃からか男の子と女の子で別れて遊ぶようになった。
 それでもアシュトンとは友達で、会ったときにはそれまでの時間など関係なかったかのように話がはずんだ。

 アシュトンは夏になるたびに来て贈り物をくれた。
 村では必要のないドレスだったり、素敵なハンカチだったり。

 嬉しかったけど、困った。ほかの友たちとは別に自分だけプレゼントを贈られたのも困惑に拍車をかけた。
 だからプレゼントはもうやめて、と断った。
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