薬師見習いの恋
 アシュトンはショックを受けた顔をしていたから、今度からはお菓子がいいとお願いしたら、レミュールで流行しているおいしいお菓子をくれるようになった。

 おかげで食いしん坊だと思われてしまったが、対処に困るプレゼントをもらうよりはいいか、と思っていた。
 見た目も美しくておいしかったからみんなにも配ろうとしたが、彼が不機嫌になるのでやめた。お菓子は全員に配れる量ではなかったからもめごとになるのを避けたのかな、とふたりで食べるにとどめた。

 すぐに不機嫌になるところは子供っぽいし、貴族らしい権高なところを見せるときはあるが、アシュトンはいい人だし友達であるはずだった。

 薬師になる協力を申し出てくれた優しさもあるのに、どうして閉じ込めるのだろう。
 薬が必要なことはアシュトンだってわかっているはずなのに。

 薬師になりたいのは最初はロニーに近づきたかったから、という不純な動機だった。
 だが、学ぶうちに純粋に薬学にひかれていった。
 この技術で人を助けたいと思った。

 なのに、こんなことでその望みが断たれるなんて。
 結局のところはまだ未熟で、今回の疫病でそれを嫌と言うほど思い知らされた。

 ひとりでは対処しきれず、ロニーがいてくれたら、と何度も思った。
 これは神の罰なのだろうか。

 そんなはずない。神に罰せられるほどの悪事をしたことはない。
 森への立ち入り禁止を破ったから?
 だけどあれは人間の作ったルールであり、神が関与するとは思えない。

 原因は細菌だとわかっているのだ。神の罰じゃない。
 だけどその細菌を作ったのが神ならば……。
 神は不純な自分を許さないのだろうか。純粋に人を救いたい、そういう者が薬師になるべきだと。
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