薬師見習いの恋
 病気をばらまいたのは王女だというアシュトンの言葉が蘇る。
 信じられない。
 ロニーも、王女も、アシュトンも、自分自身も。
 こんな自分が薬師を続けるなんて、冒涜なのではないだろうか。

 答えのない堂々巡りの思考に、マリーベルは首をふる。
 ダメだ、こんなことを考えてる場合じゃない。
 こうしている間にも病気にかかった人は苦しみ、命を奪われる危険もある。

 ガチャガチャと扉の鍵が開く音がした。
 誰か来た。
 マリーベルは暗い中を必死で目をこらす。
 すでに日は傾き、地下室は暗くなる一方だ。

 ぎい、と重たい音を立てて扉が開く。
 ろうそくのかぼそい明かりに照らされ、自分を閉じ込めた従僕とフロランがいるのが見えた。

 どうしてここにこの人が。
 マリーベルは呆然とフロランを見ると、彼は鞘から剣を抜いた。
 自分を殺しに来たのだろうか。王女が村を滅ぼすのを目的としているならば、見習いとは言え薬師である自分は邪魔な存在のはずだ。

「特効薬となる薬草の場所を知っているのか?」
 問われて、マリーベルは息を呑んだ。

 きっと月露草のことだ。
 どうして彼がそれを知っているのか。その場所を知ってどうするというのか。
 まさか、それを根絶やしにするのだろうか。村を滅ぼすために。
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