Rescue Me
 その夜、私はワインのボトルとグラスを二つ持って、颯人さんがパソコンで仕事をしているソファーにやってきた。

 「少し休憩して一緒に飲みませんか?これお義母さんと私の家族からお世話になったお礼にってもらったんです」

 颯人さんの隣に座るとワイングラスを差し出した。

 「……蒼、飲んでも大丈夫なのか?」

 颯人さんは少し混乱したように私を見た。そんな彼に私は微笑んだ。

 「……不妊治療、ちょっとお休みしようかなと思って。実は颯人さんがとってくれた予約もキャンセルしました。諦めた訳じゃないんです。ただちょっと根詰め過ぎたかなと思って……」

 リビングルームに飾ってある不妊に良いと言われるパワーストーンや、風水で運気や子宝に恵まれる言われる色とりどりの生花や観葉植物、そしてココペリやお腹にスパイラル模様のある受胎の女神の像を見回した。

 「もちろん子供は欲しいですけど、でもそればかりに気を取られて今目の前にある大切なものを見失いたくないんです」

 そう言うと私は彼の頬にキスをした。颯人さんはいつもの様に私の背もたれに腕を伸ばすと私を抱き寄せた。

 「ごめんな。本当は蒼をいろんな事から守りたいのに、全然力になれなくて……。蒼がすごくつらい思いをしているのを見てなんとか力になりたいのに、何も出来なくて無力さをすごく感じたよ」

 颯人さんは真剣に私の瞳を覗き込んだ。

 「何度も言うけど、俺は蒼が側にいてくれたらそれだけで幸せだから。蒼と一緒になったのは子供を産んで欲しいからじゃない。蒼と一緒の人生だったらきっと幸せになれると思ったからだ」

 「私も颯人さんと一緒になったのは、颯人さんと一緒だったらどこに行っても、どこに居ても必ず幸せになると思ったからです」

 私は妊娠することばかりに気を取られすっかり忘れていたこの大事な気持ちを思い出した。

 「家族も日本に帰ったし、ご近所さんも皆で3、4日ほど旅行に行っていないし、せっかくなので貰ったワインを飲みましょう。これ一本300ドルもするカベルネ・ソーヴィニヨンなんですって。しかも12年ものですよ!お義母さんがすごく気に入ったワインで、何本かお土産にも買ったらしいんです。絶対に美味しいですよ!」

 私は微笑むとワインとソムリエナイフを颯人さんに渡した。
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