浅黄色の恋物語
 ぼくだってね、30年掛かってやっとここまで磨き上げてきたんだ。 教科書だけで分かったような顔をしてもらいたくないな。
さんざんに文句も言われたし批判もされた。 だからこれまで頑張ってこれた。
 ちょっと批判されただけで家に籠るようでは人間失格ですぞ。 そこのお兄さんたち。
技術はそう簡単には身に付かないもんだ。 患者さんの体をきちんと診れなければ一流の仕事は出来ない。
 でも最近のマッサージ師は知識ばかりを強調する。 それじゃあ何にもならないんだけどなあ。

 こうして文句ばかり言いながら年の瀬を迎えたんです 今年も。
年が明ければぼくは56歳になる。 いよいよ赤いチャンチャンコが近くなってきた。
 30代まではとにかくがむしゃらに働いてきた。 苦しかったよ。
老健でも特養でも一人きりだからさあ、自分で考えて自分で解決しなきゃいけないんだ。
 あれほど苦しいことは無かったなあ。 難しい患者さんが来ても教えてくれる人が居ないんだよ。
試行錯誤しながら失敗しながらやっとの思いで成功させるんだ。
 その中でね、「この人は長くは生きられないな。」って見抜いてしまう人だって何人も居たよ。
そんなことまで分かるもんだから怖くて辞めようかって何度も思った。
 でも自分が辞めたら患者さんたちが困ってしまう。 そう思うと辞められなかった。
そのまま30年やってきたんだ。 だから今が有る。
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