低温を綴じて、なおさないで
唇が押し当てられた。わたしにさっきまでの余裕も冷静さも、なかった。簡単に奪われた唇、入り込んだ熱を押し返せなかった。甘い熱が、咥内をくすぐる。
光のない双眸にとらわれて、勝手に息が漏れていく。このひとは恐ろしいくらい慣れていて上手だ。世の女の子たちはこの甘い刺激で簡単に腰が砕けて、身体を震わせると思う。
それでも、そんな甘さを加えられてもわたしの気持ちが全然入らない。
「付き合ってないけど、キス、しちゃったね」
「(……だめ、絶対に、だめだ)」
ずっとあいまいで理解しようとしてこなかった葉月くんへの気持ち。顔はすごくタイプだし、すきかもしれない。彼女にしてくれるなら、してほしかった。でも今、はっきり答えが出た。わたしは葉月くんのこと、全然すきじゃない。すきじゃなかった。キスをして、どきどきしない。感情が動かない、心が持っていかれなかった。
それは、葉月くんもわたしのことをこれっぽっちもすきじゃないから。自分の気持ちと同時に、葉月くんの気持ちもはっきりとわかった。