低温を綴じて、なおさないで



また、ぽつり、ぽつり、と雨粒がわたしたちと地面を刺して叩きつける。この雨はきっと、すぐには止まない。



「……っはなして!」




思わず掴んだ細い腕をすぐに振り解かれて、行き場をなくして宙に浮く。



踵を返してこの場を去ろうと歩き出す茉耶を追いかけたかったのに、さっきからなにもしていなかった左腕が掴まれて、止められた。




「……あの子のことはいいから、行くなよ」


「……っなんで」


「浅井さんは少なくとも、俺のことでは傷ついてないから」



……意味、わかんない。なんで。なんで直が知ったように言うの。


だいすきな秋の空ががわたしを責めるように雨を降らす。後ろからのきみの体温、雨のせいで余計つめたい。わたしはずっと、嘘つきで最低で、罰当たりだ。




きみから“行くな”って引き止められたら、その手を振り払ってそれでも彼女を追いかけることなんて、できない。



☁︎·



< 164 / 314 >

この作品をシェア

pagetop