低温を綴じて、なおさないで



同じくらいの、夏になりかけの時期。人々をじめっとさせるような雨の続く季節。


その日は珍しく雲ひとつない青空が広がっていて、手持ちの扇風機を初登場させたくらいだった。



弓道部の活動がなかったその日、一直線に帰宅すれば、俺の部屋のベッドで足をぱたぱたしながらくつろぐ栞が「おかえり」と当たり前のように投げてきた。


栞に会えてしまったイレギュラーに頬が緩むのを必死に隠して、呆れたふりをした。



それから、暑いからエアコンをつけたいとお願いされて断ることなんてできるはずはなく、リモコンの捜索を任せた。


エアコンの承諾を嬉しそうに受け取った栞のために、いつ栞が来てもいいように冷やしてあるいちごみるくを取りに行った。栞のいちごみるくと、自分用のアップルティーを持って栞のもとへ戻れば、世界が一変していた。



なぜか立ち尽くして涙を流す栞。この一瞬で何が起きたのか、全く見当もつかなかった。


それでも確実に、俺といるこの空間、今すぐそばで大好きな女の子が泣いている、ということだけは事実だった。



「直」と俺がいちばん好きな声が消えそうなくらい震えて、俺の名前を呼ぶ。鼓膜にいつまでも残り続けてほしい声が消える前に、焦がれて仕方のない唇がやさしく触れた。



馬鹿な俺には理解が追いつかず「どういう意味」だなんて野暮なことを聞いて。「こういう意味」ともう一度温もりが重なってから、瞬時に自分を押し殺す決意をした。




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