低温を綴じて、なおさないで
「すきだし付き合っていたいけど、別れる」と大きな目に涙をいっぱい溜めて、堪えながら手紙を渡された。別れる時に手紙を渡されたことなんて、これが後にも先にも初めてだ。
教科書のお手本のような栞の字とは真逆のまるっこい字で「なおくんへ」と封筒に書かれていた。
そのときの彼女──森田真咲は栞と同じ高校に通っていて、俺のバイト先の後輩だった。彼女という存在であるにも関わらず、栞と同じ制服を着られる真咲を羨ましく思った。
と、同時に、同じ髪型、同じ制服で俺を選ぶのがなぜ栞ではないのかと苦しくて、毎日ちくちくと心臓を針で刺されている感覚があった。
そんなことを考える俺はどこまでも最低で、そんなんだから栞は振り向いてくれないんだと納得して、想いはきつく結ぶよう心がけていた。