低温を綴じて、なおさないで



この世界に、運命はあると思う。そんなきらめきが、あると思う。



普遍的な、運命。あくまで“茉耶と直”の、ではなくて。わたしはつくづく性格がわるい。




「だよねぇ!?この間も飲み会帰りに会えたし! 今、この空間に直くんがいて、目が合って、なんてないかなあ」




……ない。大きくてお人形さんみたいな目を輝かせる茉耶には申し訳ないけれど、今、直はここにはいない。



直が同じ空間に、近くにいれば、すぐに気がつくのはわたしだから。直が気がつくのもまた、わたしだから。



……なんて、ちっぽけな幼なじみマウントが虚しくて、心の奥底に溶けていって、黒く積もってゆく。



お湯を入れて3分以上が経った春雨スープ。さまさないと飲めない猫舌なわたし。


そろそろちょうどよくぬるくなったかなと容器を手に取ると、近くを通ったしらないひとのあかるい声がふと鼓膜に転がり込んできた。




「……あ、矢野先輩!」





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