迷惑ですから追いかけてこないでください!
  ワルーニャ様を罰する前に、王妃陛下とラシルくんを会わせることになりました。

 王妃陛下が滞在している、デファン公爵家の別荘に向かう馬車の中でのラシルくんは、期待と不安が入り混じった感じです。

 恐る恐る部屋に入ったラシルくんが「お母さん」と呼ぶと、王妃陛下は虚ろな目をラシルくんに向けました。
 でも、その瞳はすぐに大きく見開き、目から涙が溢れ出したのです。

 その後は邪魔になってはいけないということで、付き添っていた私たちは部屋の外に出て、ラシルくんが出てくるまで待つことにしました。

 待っている間、キール様が今までにわかってきたことを話してくれたのですが、捕まえた賊は誰に頼まれたかなど、最初は頑なに話そうとはしなかったそうです。

 プロというものはそんなものらしいです。
 でも、拷問をしたのか、それとも別の方法でかはわかりませんが、数人いた内の一人が口を割り、ワルーニャ様の関与が発覚したのです。

 ワルーニャ様は自分は関係ないと否定しましたが、彼女の侍女が暗殺者を仲介してくれる業者にサインをした契約書が見つかったため、状況は変わりました。

 暗殺者側も何かあった時の保険を残しておいたのですね。
 相手が王族なのだから、それくらいのことはしておくのは当たり前なのかもしれません。

 ワルーニャ様はそれでも侍女が勝手にやったことで、自分は何も知らないと言い張りました。

 だからといって「はい。そうですね」で終わるはずがありません。
 自分が売られたと知った侍女は全てワルーニャ様の指示だと訴えたのです。

 ワルーニャ様は侍女に危険な橋を渡らせる代わりに多くのお金を渡していました。

 でも、それは暗殺者に頼むためのお金も含めていたので、彼女の取り分はほとんどなかったのです。

 その不満もあったから、侍女はワルーニャ様を守ろうとしなかったのです。
 このままだと王子や王妃陛下を暗殺しようとした罪で、自分が処刑されてしまうことが目に見えていますからね。

 彼女も自分の命が可愛かったため、ワルーニャ様と契約書を交わしていたのです。

 それを突き付けられたワルーニャ様は言い逃れができなくなりました。
 まさか、侍女が自分を売るだなんて夢にも思っていなかったそうです。

 契約書を交わした時点で普通は警戒するものなんでしょうけど、甘やかされて育ってきたから、そこまで考えが思い至らなかったとのことでした。

「今回の件で隣国は完全に彼女を見捨てました」
「では、ロシノアール王国に攻め込んでくるつもりですか?」

 妥協案が駄目になったのであれば、戦争が起きるかもしれません。
 不安になって尋ねると、キール様は苦笑します。

「隣国は最近、酷い水害に見舞われまして、それどころではありません。戦争するよりも復興を優先しなければ、国民の気持ちは離れますし、自分たちの生活も苦しくなります」
「……隣国の国民の方には申し訳ないですが、ロシノアールとしては、ひとまずは安心といったところでしょうか」
「これからこちらも、何も手を打たないなんてことはありませんから安心してください。国際社会が今、我が国に注目していますし、隣国の真実を伝えていくつもりです」

 キール様はそう言ったあと、眉尻を下げて話題を変えます。

「今までの話とは全く違う話題になりますが、兄に廃嫡を伝えたところ、大泣きしまして」
「……大泣きですか」

 自業自得なのに大泣きするってどういうことなのでしょう。

「で、平民になる前にどうしてもミリアーナさんに会いたいと言っているんです」
「わ、私にですか?」
「はい。今すぐに平民になるわけではないので、いつでも良いですし、無理に会わなくても良いです」
「……会っても良いんですが、一つだけ、お願いを聞いてもらっても良いでしょうか」
「できる範囲になりますが、それで良いのであれば」
「かまいません」

 ラシルくんが王城に戻ったら、私は一人になるし、あの家にはもういられません。
 だから、キール様にお願いごとを伝えると、躊躇うことなく頷いてくれたのでした。
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