迷惑ですから追いかけてこないでください!
ポッコエ様に攻撃したあの日から、五十日以上が経過しました。
あの時、ポッコエ様と会うかわりに王都まで日帰りで行ける、のどかな場所に住む場所と仕事を用意してもらったので、現在の私は牧場に住み込みで働かせてもらっています。
体力のない私は毎日が筋肉痛ですし、1日が終わると疲れ切ってはいますが、やりがいのある生活を送っていました。
ラシルくんは王城に戻り、王太子として両陛下と共に生活していて、たまに、手紙が送られてきます。
手紙には「あそびにきてほしいです」と書いてくれているので「ぜひ!」と返したいところですが、さすがに無理だと思いますので曖昧な返事をしています。
もう、本当なら私とラシルくんは関わり合いになってはいけないのですから。
私は平民で、ラシルくんは王族です。
ラシルくんは雲の上の存在の人になってしまったのです。
私が牧場に働きに来てからすぐに、ワルーニャ様の裁判が始まり、処刑するしないで揉めた結果、処刑反対派が裁判員に多かったため、ワルーニャ様は処刑は免れました。
そして、彼女はロシノアール王国の修道院に送られることになったのです。
危険な思考の持ち主のため、魔法での監視付きの生活となり、奉仕活動をするようにと判決が下りました。
王子や王妃陛下を殺そうとした人間に対して、甘い判決かもしれません。
ですが、裁判員は隣国からの報復を恐れて、厳しい判決を下せなかったのです。
このことは初めからわかりきっていたことなので、別に驚くこともありませんでした。
牧場は交代で休みをとることになっていて、ちょうど私が休みの日に、なんとキール様がやって来たのです。
落ち着いて話せる場所がありませんので、牧草地に出て歩きながら話すことになりました。
挨拶とお互いの現在の状況を確認しあったあと、キール様が教えてくれたのは、ワルーニャ様のことでした。
「怪我を負いましてね」
「け、怪我ですか?」
「ええ。地方新聞にしか掲載されていませんがね」
「一体、何があったんですか?」
尋ねると、キール様は苦笑して答えます。
「修道院に来た子供に暴力をふるおうとしたんです」
「そんな! 子供は大丈夫でしたか?」
「ええ。近くにいた保護者が止めたので無事です。ですが、自分の子供が殴られそうになったので、カッとなった保護者がワルーニャを殴ったそうです。力の強い男性だったため、ワルーニャの鼻の骨は折れて片目も腫れ上がっていました」
キール様はため息を吐いてから続けます。
「修道院にいても、迷惑をかけるだけで彼女は更生できないだろうとみなされ、女性刑務所に送られることになりました」
「……そうなんですね」
会ったことはありませんから絶対とは言えませんが、あまり、性格が良さそうな人には思えないですものね。
少しは痛い目に遭わないとわからないのかもしれません。
少しの沈黙のあと、キール様が尋ねてきます。
「ここでの暮らしはどうですか?」
「体力的に厳しいものはありますが、楽しいです!」
「そ、そうですか」
笑顔で答えると、キール様が眉尻を下げたので尋ねます。
「どうかされましたか?」
「……国王陛下からこちらを預かってきました」
そう言って、キール様が手渡してくれたのは、王家の紋章の封蝋が押された封筒でした。
キール様がお付きの人からペーパーナイフをもらって封を切ってくれたので、早速、内容に目を通してみます。
そしてその内容に思わず大きな声を上げてしまいます。
「わ、私にラシル様の侍女になれと!?」
「ええ。ラシル様がどうしてもミリアーナさんに会いたいと駄々をこねているんです。両陛下もミリアーナさんには迷惑をかけたので、お礼がしたいから王城に住み込みで来てほしいと。侍女といっても、ほとんどやることはないそうですよ」
「それはそれで困ります! というか、これ、断れ」
「ないですね」
「ですよね」
国王陛下からの命令を平民が断れるわけがないですよね。
「実はもう、牧場の人には話を付けてあるんです。新しい人も用意していますし、ミリアーナさんには申し訳ないですが、3日後に迎えに来ます」
「いえいえ、そんな! 私から行きますから」
「ミリアーナさん、手紙を最後まで読みましたか?」
「最後まで?」
侍女という話に驚いて、最後まで手紙を読めていないことに言われて気がつきました。
手紙には続きがあって、私をキール様の婚約者にすると書かれていたのです。
「こ、これは駄目でしょう!」
「これも、ラシル様のお願いなんだそうです。こちらについては僕とミリアーナさんの意思を確認してから決めると仰っていました。ですから3日後、一緒に返事をしに行きましょう」
「あ、あの、キール様は、なんと答えるおつもりで?」
手紙で顔を隠して尋ねると、キール様が覗き込んできました。
「ミリアーナさんが嫌でなければぜひ」
「い、嫌じゃないです!」
「では、よろしくお願いします」
キール様が笑顔で私に手を差し出してきました。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
一礼してから、キール様の手に自分の手を重ねたのでした。
*****
そして3日後、迎えに来てくれたキール様と一緒に私は王城に向かいました。
馬車の中で私の家族の話を聞いたところ、お姉様はポッコエ様との婚約が解消されたあとは、爵位は子爵ですが、財産がある家の令息と婚約したそうです。
その婚約者は猜疑心が強い人で、お姉様の行動すべてを疑うのだといいます。
二人で買い物に行っても「今、お店の人に色目を使いましたね」と言ったり、自分と会っていない時は、いつ、どこで誰と会っていたか、家では何をしていかなど、全て書き記しておかないといけないらしく、お姉様は婚約を解消したがっているとのことでした。
お姉様は婚約を解消したいみたいですが、家の財政が厳しいため、両親が婚約の解消を認めていないんだそうです。
私がラシルくんの侍女になるとわかれば、必死に連絡を取ろうとしてくるんでしょうけれど、私は王城内で暮らすから、お父様たちが連絡を取ることは無理でしょうね。
家族がどうなっていくかは、高みの見物をさせてもらいましょう。
ポッコエ様も採掘場で肉体労働を頑張っているらしいけど、いつまで持つかわからない状況らしいです。
馬車の中でキール様と色々な話をしていると、あっという間に時間が過ぎ、王城に着いた私たちは謁見の間に案内されたのです。
「ミリアーナさん!」
謁見の間で再会したラシルくんは、昔よりもふっくらしています。
私の顔を見るなり壇上から駆け下りてきて、足に抱きついてきました。
「どうして、あいにきてくれなかったんですか! ひ、ひどいです!」
「も、申し訳ございません!」
「これからはいっぱい、おはなしてくれないとゆるさないです!」
「ラシル様が望むのであれば」
「ぼくはラシルくんです!」
ラシル様と呼ばれるのは嫌らしいですね。
「承知いたしました」
自分でくんを付ける姿が可愛くて、ついつい笑みをこぼすと隣に立っているキール様も壇上の両陛下も微笑みました。
さあ、私の新しい生活はどのようなものになるんでしょう。
どんなことが起こるかはわかりませんが、自分自身が幸せだと思える、素敵な人生にしてみせます!
あの時、ポッコエ様と会うかわりに王都まで日帰りで行ける、のどかな場所に住む場所と仕事を用意してもらったので、現在の私は牧場に住み込みで働かせてもらっています。
体力のない私は毎日が筋肉痛ですし、1日が終わると疲れ切ってはいますが、やりがいのある生活を送っていました。
ラシルくんは王城に戻り、王太子として両陛下と共に生活していて、たまに、手紙が送られてきます。
手紙には「あそびにきてほしいです」と書いてくれているので「ぜひ!」と返したいところですが、さすがに無理だと思いますので曖昧な返事をしています。
もう、本当なら私とラシルくんは関わり合いになってはいけないのですから。
私は平民で、ラシルくんは王族です。
ラシルくんは雲の上の存在の人になってしまったのです。
私が牧場に働きに来てからすぐに、ワルーニャ様の裁判が始まり、処刑するしないで揉めた結果、処刑反対派が裁判員に多かったため、ワルーニャ様は処刑は免れました。
そして、彼女はロシノアール王国の修道院に送られることになったのです。
危険な思考の持ち主のため、魔法での監視付きの生活となり、奉仕活動をするようにと判決が下りました。
王子や王妃陛下を殺そうとした人間に対して、甘い判決かもしれません。
ですが、裁判員は隣国からの報復を恐れて、厳しい判決を下せなかったのです。
このことは初めからわかりきっていたことなので、別に驚くこともありませんでした。
牧場は交代で休みをとることになっていて、ちょうど私が休みの日に、なんとキール様がやって来たのです。
落ち着いて話せる場所がありませんので、牧草地に出て歩きながら話すことになりました。
挨拶とお互いの現在の状況を確認しあったあと、キール様が教えてくれたのは、ワルーニャ様のことでした。
「怪我を負いましてね」
「け、怪我ですか?」
「ええ。地方新聞にしか掲載されていませんがね」
「一体、何があったんですか?」
尋ねると、キール様は苦笑して答えます。
「修道院に来た子供に暴力をふるおうとしたんです」
「そんな! 子供は大丈夫でしたか?」
「ええ。近くにいた保護者が止めたので無事です。ですが、自分の子供が殴られそうになったので、カッとなった保護者がワルーニャを殴ったそうです。力の強い男性だったため、ワルーニャの鼻の骨は折れて片目も腫れ上がっていました」
キール様はため息を吐いてから続けます。
「修道院にいても、迷惑をかけるだけで彼女は更生できないだろうとみなされ、女性刑務所に送られることになりました」
「……そうなんですね」
会ったことはありませんから絶対とは言えませんが、あまり、性格が良さそうな人には思えないですものね。
少しは痛い目に遭わないとわからないのかもしれません。
少しの沈黙のあと、キール様が尋ねてきます。
「ここでの暮らしはどうですか?」
「体力的に厳しいものはありますが、楽しいです!」
「そ、そうですか」
笑顔で答えると、キール様が眉尻を下げたので尋ねます。
「どうかされましたか?」
「……国王陛下からこちらを預かってきました」
そう言って、キール様が手渡してくれたのは、王家の紋章の封蝋が押された封筒でした。
キール様がお付きの人からペーパーナイフをもらって封を切ってくれたので、早速、内容に目を通してみます。
そしてその内容に思わず大きな声を上げてしまいます。
「わ、私にラシル様の侍女になれと!?」
「ええ。ラシル様がどうしてもミリアーナさんに会いたいと駄々をこねているんです。両陛下もミリアーナさんには迷惑をかけたので、お礼がしたいから王城に住み込みで来てほしいと。侍女といっても、ほとんどやることはないそうですよ」
「それはそれで困ります! というか、これ、断れ」
「ないですね」
「ですよね」
国王陛下からの命令を平民が断れるわけがないですよね。
「実はもう、牧場の人には話を付けてあるんです。新しい人も用意していますし、ミリアーナさんには申し訳ないですが、3日後に迎えに来ます」
「いえいえ、そんな! 私から行きますから」
「ミリアーナさん、手紙を最後まで読みましたか?」
「最後まで?」
侍女という話に驚いて、最後まで手紙を読めていないことに言われて気がつきました。
手紙には続きがあって、私をキール様の婚約者にすると書かれていたのです。
「こ、これは駄目でしょう!」
「これも、ラシル様のお願いなんだそうです。こちらについては僕とミリアーナさんの意思を確認してから決めると仰っていました。ですから3日後、一緒に返事をしに行きましょう」
「あ、あの、キール様は、なんと答えるおつもりで?」
手紙で顔を隠して尋ねると、キール様が覗き込んできました。
「ミリアーナさんが嫌でなければぜひ」
「い、嫌じゃないです!」
「では、よろしくお願いします」
キール様が笑顔で私に手を差し出してきました。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
一礼してから、キール様の手に自分の手を重ねたのでした。
*****
そして3日後、迎えに来てくれたキール様と一緒に私は王城に向かいました。
馬車の中で私の家族の話を聞いたところ、お姉様はポッコエ様との婚約が解消されたあとは、爵位は子爵ですが、財産がある家の令息と婚約したそうです。
その婚約者は猜疑心が強い人で、お姉様の行動すべてを疑うのだといいます。
二人で買い物に行っても「今、お店の人に色目を使いましたね」と言ったり、自分と会っていない時は、いつ、どこで誰と会っていたか、家では何をしていかなど、全て書き記しておかないといけないらしく、お姉様は婚約を解消したがっているとのことでした。
お姉様は婚約を解消したいみたいですが、家の財政が厳しいため、両親が婚約の解消を認めていないんだそうです。
私がラシルくんの侍女になるとわかれば、必死に連絡を取ろうとしてくるんでしょうけれど、私は王城内で暮らすから、お父様たちが連絡を取ることは無理でしょうね。
家族がどうなっていくかは、高みの見物をさせてもらいましょう。
ポッコエ様も採掘場で肉体労働を頑張っているらしいけど、いつまで持つかわからない状況らしいです。
馬車の中でキール様と色々な話をしていると、あっという間に時間が過ぎ、王城に着いた私たちは謁見の間に案内されたのです。
「ミリアーナさん!」
謁見の間で再会したラシルくんは、昔よりもふっくらしています。
私の顔を見るなり壇上から駆け下りてきて、足に抱きついてきました。
「どうして、あいにきてくれなかったんですか! ひ、ひどいです!」
「も、申し訳ございません!」
「これからはいっぱい、おはなしてくれないとゆるさないです!」
「ラシル様が望むのであれば」
「ぼくはラシルくんです!」
ラシル様と呼ばれるのは嫌らしいですね。
「承知いたしました」
自分でくんを付ける姿が可愛くて、ついつい笑みをこぼすと隣に立っているキール様も壇上の両陛下も微笑みました。
さあ、私の新しい生活はどのようなものになるんでしょう。
どんなことが起こるかはわかりませんが、自分自身が幸せだと思える、素敵な人生にしてみせます!


