恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる

「大丈夫だ。俺たちは十分に準備してきた。神崎さんなら、アンナさんの試験をクリアできる」

 根拠もなく言っているわけではない。今日を迎えるまでにしてきた努力は、自分たちが一番わかっている。

 ふたりでいた方が心強いのは確かだが、バラバラになったところで実力が半減する訳ではない。

「真城さん……」
「こういうパターンは正直初めてだけど、海外出張にトラブルはつきものだ。イレギュラーも楽しむくらいの気持ちでいよう。俺のバッグだけ預かっててくれ。それじゃ、健闘を祈ってる」

 正直なところ俺も少し緊張はしていたが、それを見せたら神崎さんにもきっと伝染してしまう。だからあえて余裕の笑みを彼女に向けた。

 神崎さんも腹をくくったらしく、バッグを受け取るときゅっと唇を引き締め、頷きを返してくれる。

「はい。真城さんもご武運を」

 その言葉を最後に、アンナさんとこの場に残る神崎さんと別れ、俺はニルセンさんとブドウ畑へ向かう。

 数種類のブドウが栽培されている中でも、この農園で一番の自慢は白ブドウの女王『シャルドネ』だそう。

 地中海沿岸など温暖な地域で育てると甘い果実味が特徴のブドウに育つが、デンマークのような涼しい地域では、柑橘や青りんごに似たすっきりとした酸味が出るのだと、ニルセンさんが木々の合間を歩きながら教えてくれる。

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