恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
「昴矢! よかった、会えた……!」
「那美……」
呆気にとられる昴矢さんを見る限り、彼女と約束していたわけではないのだろう。
前に会社の前で待ち伏せされていた時に、会いに来るなら連絡するようにと彼がきつめに促していたはずなのに……。
「今日は会えないと伝えただろ。それと、今のは不法侵入だぞ」
「わかってる。……ごめんなさい。でも、どうしても話を聞いてほしくて」
「話って?」
「……その人の前では言いたくない」
唇を噛んだ那美さんが、じろっと私を睨む。
邪魔だと言いたいのだろう。不本意ではあるけれど、私と昴矢さんならいつでも話はできる。
彼女にもなにか事情があるのだろうし、今追い返してもまたいつか現れるだろう。これまで何度も彼に会いに来ていたし……。
「昴矢さん、私は先に帰ってますね。話はまた今度で大丈夫です」
「志乃……ごめん。後で連絡する」
昴矢さんもきっと、彼女を今追い返すのは得策でないと思ったのだろう。心苦しそうに私に謝ってから、那美さんの方へ体を向ける。
彼女のことは友人だと言っていたし、なにも心配することはないよね……。
自分にそう言い聞かせ、エレベーターホールへと向かおうと足を踏み出したその時。
「あのね、昴矢。私、妊娠してるの」