恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
「実は……こないだ、神崎さんの同僚らしいお客さんが来ましてね」
「私の同僚?」
ということは、営業部の誰かということ? それとも他部署の社員だろうか。
「カウンター席ではなくて、そっちのボックス席に男性四人くらいのグループで座っていました。そこで、仕事の愚痴大会が始まって」
店主の言いにくそうな様子に、なんとなく愚痴の内容を察した。
針ヶ谷さんほどわかりやすく態度には出さなくても、営業部で私を疎ましく思っている社員が他にもいるというのは、肌で感じている。
店主がこんなに言いにくそうにしているのも、きっとそれが理由だ。
「その愚痴が、私に関することだったんですね? ここまできたらおっしゃってください。私なら大丈夫ですから」
店主に向かってふっと微笑む。
〝大丈夫〟――自分にそう暗示をかけるのは昔から得意なのだ。
「……わかりました。本来お客さんの会話を第三者に明かすのはあるまじきことですが、今回ばかりは私も黙ったままでいるのは心苦しい。なによりあなた自身に関係のある話ですし」
店主は小さく息を吸って、こちらを見る。私もジッと目を合わせ、傷つく覚悟を決めた。