恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる

「とんでもないです。最初は一本だったのをここまで増やしていただいて、ありがたい限りですよ」
「そうは言ってもね……。こうしている間にも、神崎さんの貴重な時間を奪っているでしょう? だったら、こんな年寄りの小さな店には見切りをつけて、多く仕入れてくれる店を開拓した方が会社のためになるんじゃありませんか?」

 どこか気落ちした様子で、店主が語りかけてくる。

 いつも売り上げはその日暮らせるギリギリ。

 それでも、この店を続けることが生きがいなのだとこれまで何度も聞かされていただけに、急にどうしたのだろうと心配になる。

「そんなことありません。弊社はこだわり抜いて選んだ商品を大切に扱ってくださる取引先様であれば、企業の規模に関係なく契約させていただきますし、お店の積極的なサポーターにもなりますから。どうぞご心配なさらないでください」
「そうかい? それならいいんだけど……」

 言葉のわりに、店主の表情は浮かないままだ。

「なにか気になることがあるんですか? もしそうなら、遠慮なくご相談ください」

 こうした個人店とのお付き合いでは、勇気を出して相手の懐に一歩踏みこんでみることも珍しくない。

 そこまでしなくていいと言う営業担当もいるだろうけれど、付き合いが長くなればなるほど、ビジネスだけにとどまらない絆が生まれていくのがわかる。

 お互いに商売でも、結局は人対人。目を見て話すことで生まれる信頼関係は、他のなにものにも代えがたい。

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