恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる

「志乃」

 優しく呼び掛けられて、緊張がほんの少しほどける。ゆっくり振り向くと昴矢さんの穏やかな笑みがそばにあって、トクンと胸が鳴った。

 昴矢さんがゆっくり、私の髪を撫でる。それから、気遣うように私に尋ねた。

「セックスは苦手?」

 責めるような調子ではなかった。むしろカウンセリングのように、彼の問いかけがスッと心に入ってきて、私は考えるより先にこくんと頷いていた。

「……気づいてたんですか」
「なんとなく、触れられるのが苦手そうだなって。でも、俺とキスしたり、抱き合ったりするのは嫌じゃなさそうに見える。……自惚れじゃないよな?」
「はい。昴矢さんとのスキンシップは……軽いものであれば、むしろ好き、です」

 恥を忍んで告白する。

 照れ隠しのつもりで、握り合っている手を軽く動かし、彼の手をすりっと撫でた。

「じゃあ、本当にあと一歩ってところなんだな。嫌なら無理強いはしないけど、俺の気持ちとしては――」
「嫌じゃないです。頑張りたいです、私」
「志乃……本当に?」
「はい」

 彼の目を見て、しっかりと頷く。

「じゃあ、俺にも頑張らせて。できるだけきみの苦手意識を取り除けるように、大切に抱くから」
「昴矢さん……」

 そんな風に言ってくれる男の人は初めてだ。

 いつも、男性の欲求にうまく答えられない自分が情けなくて恥ずかしかったけれど、昴矢さんの前ではありのままでいいのだと思うと、心がとても楽になる。

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