恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
その日は帰宅後に五キロのランニングをして、一度シャワーを浴びてから近所のコンビニでお酒を買った。
昼間の試飲会では安くない高品質のワインを薦めておきながら、自分のために買うのはごく普通の缶ビール。
ひとり暮らしではワインを買っても飲みきれないし、仕事の後はやっぱりビールの喉越しと爽快感が欲しくなるんだよね……。
腹ごしらえに少量パックのサラダと六個入りの冷凍餃子も購入し、エコバッグを片手にほくほくしながら自宅マンションへと戻る。
エントランスの自動ドアから中に入ろうとしたところで、ちょうど飛び出してきた女性とぶつかってしまった。というか、向こうからぶつかってきた。
「わっ」
「す、すみません……!」
慌てた様子で頭を下げたのは、スッキリと耳を出したショートヘアの美人だ。
思わずドキッとしたのは、彼女が泣いていたからだ。
「あの、大丈夫ですか――」
尋ねる途中で、女性はペコッと頭を下げて走り去ってしまう。
なんだか急いでいるみたい……。
「……あれ? 神崎さん」
自動ドアは閉まってしまったものの、女性が去った方に首を向けたままでいたら、今度は見知った人の声がした。