恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる

 なんでも料理長は、レストランで提供する食材はすべて国産のものにこだわっていたが、日本のワインには疎く、上質なワインは外国産だけだと思い込んでいたらしい。

 私の持参したワインを口に運ぶたびその香りと美味しさに感嘆し、ひと通り飲み終えた後で、例のひと言を漏らしたというわけだ。

 具体的な発注数などはまだ未定だが、早めに店のスタッフ内で相談し、連絡をくれるそう。

 私が来月異動になってしまうことを伝えると、料理長は残念がってくれた。

『手柄を後任の方に取られたら大変ですから、月が替わる前に連絡します』なんて、冗談まで添えて。

「こちらこそ。日本のワインの素晴らしさを教えていただいて、勉強になりました。お気をつけてお帰りください」
「ありがとうございます。失礼いたします」

 料理長に別れを告げ、駅へ向かう。

 肩から提げたクーラーボックスが軽いのは、ワインが空になったからという物理的な理由のほかに、仕事がうまくいった達成感も関係ある気がした。

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