恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる

「それならいいけど、運転のことは気にしないで。俺も車は持ってるけど、プライベートではあまり乗らないんだ。東京に住んでるとあまり必要ないよな」

 なんて言って、休日は助手席に女性を乗せてドライブしているんじゃないの?

 運転席に乗り込んだ彼の隣でシートベルトを締めつつ、心の中だけで問いかける。

 頭に浮かんだのは、以前マンションのエントランスででぶつかったショートヘアの女性だ。真城さんが泣かせたと思われる、綺麗な人。無事に仲直りはできたのだろうか。

 走り出した車は、首都高の湾岸線に入る。ナビを確認すると、しばらく渋滞はなさそうだ。

「横浜方面からの帰り道は、この夜景が見られるからいいよな」

 真城さんがそう呟いた時、私たちの車はベイブリッジを渡る手前だった。暗い海に浮かび上がる、巨大な白い橋。

 等間隔に並んだ街灯や走行する車のランプも、ロマンチックな夜景の一部となって横浜の海を彩っている。

「……綺麗」

 景色を見ただけで素直に感動したのは久しぶりだった。日々のランニングでもよく海辺を走るけれど、毎日のように見ていればもはや日常風景になる。

 同じ東京湾なのに、なにが違うのだろう。不思議と今日の夜景は胸に沁みる。

「神崎さん、疲れてるんだろ」
「えっ?」
「なんか泣きそうな気配を感じたんだけど、違う?」

 自分ではそんなつもりなどなかったので、戸惑って目を瞬かせる。

 その時、睫毛がほんのわずかな水滴を弾いた。

 嘘、私、泣いてた……!?

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