恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる

「す、すみません! なんでだろう。たぶん、とくに理由はないです!」

 慌ててハンカチを出し、目元にあてる。

 本当に、なんで涙が出たのか謎だ……。

 居たたまれないオーラを出しまくる私を、真城さんはふっと笑う。

「別に無理して泣き止もうとしなくていいよ。ここには俺しかいないし、誰かに言うつもりもない。たぶん異動初日ってことで、ずっと気を張ってたんじゃないか?」
「私、そんなに繊細なタイプじゃないですよ。異動と言っても隣の部署だし、業務内容がガラッと変わったわけでもないし」
「でも、俺と組むと決まった時はちょっと〝げっ〟と思っただろ。マンションの部屋が隣同士なのに、仕事でも一緒かよって」

 真城さんは冗談っぽく言うけれど、軽く図星だったので慌てる。

「そんなことあるわけないじゃないですか……! もちろん、真城さんほど営業成績のいい方と組むことに多少のプレッシャーは感じますが、一緒にお仕事できるのはむしろ光栄というか、自分のキャリアにもきっとプラスになるだろうなって思ってます」

 我ながら、うまいことを言った。これなら納得してもらえただろう――。

「それが営業トークじゃないことを信じるよ」
「そんな……! 私は本心で」
「いつもの仕返し。俺の気持ちわかった?」

 ちらりとこちらを一瞥した彼の目が少し意地悪で、私はきゅっと口をつぐむ。

 彼に褒め言葉を投げかけられた時、私はいつも営業トークだと決めつけてまともに受け取ってこなかった。

 それをこんなところで持ち出すなんて、真城さんってけっこう根に持つタイプ?

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